「雪に紛れて」-短編ラジオドラマ脚本-
※初めての方は利用規約を必読ください。
☆雪降る季節の「曖昧な関係」に悩む女の子を描く短編ラジオドラマ(約1000字:約4分)
〈キャスト〉
・前橋 冬華(フユカ)(女) 大学3年
・一ノ瀬 藤太 (男) 大学4年
・スタッフ (お任せ)
SE 人の賑わい
冬華「せーんぱい。お待たせしました!」
藤太「ん、遅かったな。」
冬華「むー、そういう時は”今来たところ”って言うんですよ」
藤太「あぁ、そうか。ま、とりあえず行こうか」
冬華「はい!」
冬華(M)「先輩とは大学に入ってから知り合った。私は先輩のことが好きで、先輩も嫌そうではなくて…曖昧な関係なんだと思う。」
SE 遊園地
冬華「遊園地なんて久々だなぁ…」
藤太「冬華は中学生料金で入ったか?」
冬華「そんな幼くないですよ!年齢確認はされますけど…」
スタッフ「そこのお父さん、どうですか!娘さんと一緒に写真でも!」
冬華「…ねーお父さん?私あっちのパフェが食べたいなぁー」
藤太「あ、あはは。そうだな、そうしようか。(以下小声)…頼むから腕つねるのやめてくれ!」
冬華「はぁ…」
冬華(M)「先輩とはいつもこうなる。カップルって感じにはどうしてもなれなくて…」
冬華「ねぇ、先輩」
藤太「ん?」
冬華(M)「”私のこと、好きですか?”なんて。この関係が終わってしまいそうで、言えなくて。」
藤太「どうした?体調悪いか?ちょっと歩きすぎたよな…スマン気づいてやれなくて。」
冬華(M)「先輩の優しさに甘えて…曖昧な関係でいてしまうんだ。ずっと。そんな自分に嫌気がさして…少し、泣けてくる。」
藤太「冬華?」
冬華「ん…大丈夫です。あぁ…なんか目に入ったみたいで!って…雪…??」
藤太「ん、ああ。雪虫…だな。」
冬華「なんだ、虫か。」
藤太「なんだ、って…酷くないか?雪虫ってロマンチックなんだぞ。寿命なんて1週間だし、どっかに引っかかっても、人の体温でも死んでしまう。冬の訪れを知らせる儚い命、素敵だろ?」
冬華「知らないですよ、そんなの。でも…」
藤太「でも?」
冬華「命が尽きる…終わるって分かっていて、それでも今を懸命に生きてるんだとしたら。それは…素敵なことだと思います。…私も、そうでありたいですから。」
冬華(M)「いつ終わるかなんて、わからない。命も、曖昧な関係も…全部全部そうだ。だから…終わらせてしまえ。想いのままに。終わりは、必ずやってくるんだから。」
藤太「うぅ、冷え込んできたし帰るか、なぁ冬華。冬華?」
冬華「先輩、私…」
————-fin————–
余談:2018年12月に執筆した脚本。テーマは「終わり」
12月の雪降る季節に想いを馳せた作品です。
・制作裏話
テーマが「終わり」ということで、当時の発想として1番に出てきたのは安直なことに「命の終わり」でした。
20年という短い人生ではありますが、両家の祖父、幼い頃の友人、大学に入ってからは被災地に足を運ぶなど、命について考えることが幾度かあります。
その度に思うことは、命は当たり前でもなく、いつまでも続くのものでもないということ。
次の同窓会、1年後、明日、数時間後には神様の悪戯かのように命を落とすことだって”ない”なんて言い切れないと実感しています。
それこそ、雪虫が人間の何気ない行動で亡くなってしまうように。
詩的な表現でもなんでもなく「昨日まで笑っていたあなたは、もういない」なんてことは現実にもある。
かといって、悲観的に毎日を生きればいいのかと言えば、それは違うと断言したい。
そんなの生きたくても生きれなかった人たちに失礼だと勝手ながら思うのです。
だから私は「今」を大切にしたい。「今」とは想いだったり、周りの人との関係だったり。
今回の脚本では「命の終わり」の象徴として「雪虫」に例えました。
涙で滲んだ世界では、雪虫は紛れもなく雪に見える。幻想的です。
主人公は「終わるくらいなら、終わらせる覚悟で」関係に白黒をつけます。
もちろんリスナー、読者の皆様がどう感じるかは自由です。
綺麗事、安っぽい、どう感じてもそれがドラマでもあると思うのであるから。(終)