短編ラジオドラマ脚本『りんご飴の君』(作:そらのすけ)

【キャスト】
岡崎 太一(オカザキ タイチ)
三十歳の男性。汐里の夫。
建築関係の仕事をしている。
汐里のため、自宅で働いている。

岡崎 汐里(オカザキ シオリ)
三十二歳の女性。太一の妻。
解離性健忘で記憶のほとんどが欠落している。
日常動作や生活には問題ない。
健忘の影響で物静か。元は明るい性格。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


SE 花火

太M 結婚してから5年、花火大会に行かない年はなかった。今年も…当然行くのだと思っていた。

汐里 花火って、こんな風なんですね。綺麗。

太一 汐里さんは見るの初めてだっけ。

汐里 ええ、多分。

太一 …感染症のせいで、今年は見られないと思ってたからなぁ。高台の家で良かったよ。

太M 小高い丘に建つ一軒家。花火が大好きな汐里さんが、ここが良いと譲らなかった家。

汐里 前はいつも見られるものだったんですか。

太一 夏はね。色んな所でお祭りをやって、花火大会もたくさん。

汐里 楽しそう。お祭りにも行ってみたいです。

太一 連れていくよ。来年になっちゃうけど。

汐里 …ねぇ、太一さん。

太一 なに?

汐里 今年は…、花火はこれきり?

太一 あー、そうじゃないかな。ほら、三密避けないといけないから。

汐里 そっか…ちょっと残念。

太M その口ぶりに、思わず息をのむ。だけど、

SE 花火(ひときわ大きく)

汐里 太一さんが言ってたりんご飴、食べてみたかったんですけど。

太M 彼女はもう、全部、覚えていない。

汐里 「太一、りんご飴! 」

太M その赤の映える笑顔はもうどこにもない。

汐里 太一さん?

太一 また来年、その時にはきっと…良くなっているよ。

汐里 そうですね。

太M だから今年は、もうこの一回きりで。

SE 花火が遠くに聞こえる… 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA