「波に呑まれて」-短編ラジオドラマ 脚本-
※初めての方は利用規約を必読ください。
☆海岸で想いを馳せるある女の子のラジオドラマ。(約600字:約2分)

本郷 優(ユウ) 高校2年 男
山本 灯(アカリ) 高校3年 女
灯M 死んだ彼に会いたい。そう思うのは、願うのは、ワガママだろうか。
SE 波の音
優 今日の海は荒れてるね。夏の海だ。
灯M 波音が、彼の声を乗せてくる。もう会うことが出来ない、彼の声だけを。
優 どうして、また来たの?
灯 優の声を聞けるから。
灯M 海へと伸びる堤防の上。私は制服のまま寝転んでいた。月明かりが雲に隠れた。
灯 …来ない方が、良かった?
優 嬉しいよ。でもこうして寝ていたら襲ってしまうかもな。それこそ波で…一瞬で。
SE 波の音
灯 それも…いいかも。
優 冗談だよ。灯にはまだ生きててもらわないと。俺の分まで。
灯M 磯の香りが目にしみる。小さな波が心の中まで波及する。どうしようもなく、苦しかった。
灯 私、高校卒業してもずっとここにいる。
優 灯…
灯 優のこと忘れないし、ずっと一緒にいたい。消えたりなんて…しないでよ。
優 灯…知ってるか。人って、声から忘れるんだ。だから、もう…
SE 波の音
灯M 波の音が、うるさかった。彼の声は聞こえなかった。そう最初から、ずっと…
灯 ねぇ、神さま。ただのワガママです。どうか一度だけ、彼に会わせてください。そしたら二度と…二度と…忘れないのに。
灯M やりようのない想いと声は、空に浮かぶ月と一緒に…波に呑まれていった。